特集
Feature東日本大震災から10年。沿岸部を中心に大きな被害を受けた仙台市では、日々復興が進んでいます。その先にあるのは、災害に強いまちづくり。
被災地・仙台だからこそ発信できる、震災がもたらしたものや伝えたいこと、そして未来につなぐ取り組み。それらをぜひ現地で体感してみてはいかがでしょうか?震災現場や関連施設を見て、感じて、改めて震災を「知る」ことからはじめませんか。
※この特集は2021年2月の取材をもとに作成した記事です。
東日本大震災で甚大な津波被害を受けた仙台市沿岸部。その玄関口となる地下鉄東西線荒井駅の駅舎内に整備された「せんだい3.11メモリアル交流館」は、震災の記憶と経験、そして東部沿岸地域の文化や暮らしを伝える施設です。震災前の沿岸地域の様子や、震災の被害状況、現在も続く復興の歩みを紹介する常設展に加え、年に数回テーマを替えて震災の経験を未来につなぐ企画展を開催。展示室の床には被災した小学校の体育館で使われていた床材が再利用され、その場に立つだけで震災に触れる体験につながります。施設職員の解説も受けられるので、震災のことや地域のことを詳しく学ぶことができます。
館内の壁には、地域住民の記憶をもとに仙台在住のイラストレーター、佐藤ジュンコさんが描いた東部沿岸地域のイラストマップも掲出されています。カラフルで愛らしいイラストが地域の名所や思い出を魅力的に伝えてくれます。
さらに、「わたしたちの3.11」と題して、来館者それぞれの3.11への想いを短冊に書き掲示してもらう参加型の展示が行われています。一人ひとりがあの日に思いを馳せ、考え、自由に表現できるコミュニケーションの場となっています。
また、時期に併せて東部沿岸地域で行われてきたお月見「豆名月(まめげっつぁん)」など、文化や風習にフォーカスを当てたイベントが開催され、震災の出来事を共有する場だけでなく、地域の生活を伝える役割を担っています。
施設職員の方が常設展を20~30分かけ説明します。来館者からは「同じ日本にいて知らないことばかりでした」との声も聞かれます。
地域住民がまちの思い出などを付箋に残し、それを佐藤ジュンコさんが温かなタッチのイラストで描いてくれています。
みんなの3.11を共有できる「わたしたちの3.11」。短冊は仙台七夕まつりの期間中には館内の七夕飾りとして笹に飾り付けられます。
ドライバーがガイドを務め、タクシーで宮城県内の被災地を案内してくれる「語り部タクシー」。現在、仙台市内の25社でサービスを提供し、要望に合わせてコースをプランニングしてくれます。
そのなかの一つ、仙南タクシーで語り部をしているのが岩崎弘さん。「震災で起きたことを後世に伝えなければ」という強い使命感のもと、発足当時から多くの人を案内してきました。
仙台市内の場合は、津波の爪痕を残す荒浜小学校や仙台市荒浜地区住宅基礎、当時の津波とほぼ同じ高さの慰霊塔「荒浜祈りの塔」、鎮魂のモニュメント「荒浜記憶の鐘」を回る約2時間のコースが定番。時間によっては名取市閖上まで案内することも。
岩崎さんは、講習会で学んだ知識に加え、自ら被災地に行き話を聞くなど独自に情報を収集しているそう。震災前の写真を提示しながら、わかりやすくガイドしてくれます。
「津波の脅威を知ってもらい、万が一のときに生かしてもらいたい」と、乗客には減災のアドバイスも。荒浜地区に造られた避難の丘や津波避難タワーも必ず案内し、当日の乗客の安全に気を配ります。
「個人で遺構や施設を巡るのもいいですが、説明を聞きながら見学すればより深く震災を知ることができると思います。被災地では日々復興が進んでいます。今の姿もぜひ見ていただきたいですね」。
※予約、問い合わせは各タクシー会社もしくは宮城県タクシー協会
ドライバー歴20年以上という仙南タクシーの岩崎弘さん。各スポットを一緒に歩き説明してくれる
語り部は、NPO法人宮城復興支援センターの講習を受けた認定ドライバーが務めている
津波によって基礎だけになった住宅跡や、津波でえぐられた地盤が残る仙台市荒浜地区住宅基礎
多くの人の命を救った場所でもある荒浜小学校。所要時間30分~1時間半で見学できる
海岸から約700mの場所にある荒浜小学校。震災当時は、建物の2階まで津波が押し寄せましたが、避難していた児童や職員、地域住民が27時間後までに全員救出されました。現在は、津波の脅威をありのままに残す場所として一般公開されています。
津波によってベランダの柵が倒れた校舎東側、瓦礫や車が流れ込み大きく傷ついた1階教室、天井や床に残る浸水の跡など、いたるところに見られる津波のすさまじさ。実際に校舎に入り見学できる貴重な震災遺構です。
4階の展示室では、震災発生から救出までの27時間をまとめた映像を上映するほか、震災前の荒浜地区を再現した1/500縮尺の模型や、小学校の思い出、さらに、避難時の様子や防災に関する展示も実施されています。
「ここは震災の出来事だけを伝えるものではなく、2011年3月11日を基軸に、震災前と未来を線でつなぐ場所。身体性を持って津波の脅威を実感してもらい、防災·減災に生かしてもらいたいと思っています。また、この小学校は、住民の皆さんにとって荒浜地区で唯一残る思い出の場所です。実際に訪れていただくと、この地域に生活があったことを想像していただけると思います」と、荒浜小職員で案内を行う髙山智行さんは語ってくれました。
荒浜地区が一望できる屋上では、展示されている震災前の風景と比べながら、被害を受けた街の姿と復興の様子を見ることができます。
「正しい情報で震災を伝えること、展示だけでなく人から人へ伝えることを大切にしています」と髙山智行さん
地域住民が記憶を基に屋根の色を塗るなどした荒浜地区の模型。展示室では地域の歴史や文化も伝える
4階展示室では、当時の校長や町内会長のインタビューなどを交えた「3.11荒浜小学校の27時間」を上映
現在公開されている「せんだい3.11メモリアル交流館」「震災遺構仙台市立荒浜小学校」「震災遺構仙台市荒浜地区住宅基礎」は、震災の脅威と復興の取り組みを後世に継承する仙台市の震災復興メモリアル事業です。
なかでも荒浜小学校は、常時内部まで公開している、学校施設をもとにした最初の震災遺構として、2017年4月の公開以降、日本全国はもとより、世界各地から多くの見学者が訪れています。
さらに、震災の記憶と経験を未来や世界へつないでいく継承のための拠点として、仙台市中心部に震災メモリアル拠点の設置も検討中です。
「メモリアル事業は、震災を振り返るだけでなく、100年超の将来を見据えた防災·減災の取り組みです。東日本大震災の経験を活かし、災害は起きるものと認識して、それを乗り越える術を持った社会文化をつくり、根付かせ、発信していくことを目指しています」と話すのは、仙台市まちづくり政策局防災環境都市·震災復興室で震災復興·メモリアル事業担当課長の佐藤裕大さん。
また、実際に荒浜小学校の案内も行う同主事の大場慎也さんは、「震災を経験していない子どもたちも、被災した建物や周りの状況を見ると、身をもって津波の怖さを知ることができます。自分の目で見ることの大切さを感じますね」と話します。
仙台市まちづくり政策局防災環境都市・震災復興室の大場慎也さん(左)と佐藤裕大さん(右)※2020年取材当時
2021年にオープンした、「JRフルーツパーク仙台あらはま」は、約11haの園内で野菜や果物が栽培され、ブルーベリー、いちご、ナシ、イチジク、ブドウ、リンゴなど、1年を通して8品目150品種以上の果実の摘み取り体験ができる「体験型観光農園」です。冬から春にかけての時期、1万4000株を有するいちごハウスは特に人気。この農園で採れた果物や野菜は、併設されている「あらはまマルシェ」でも購入することができます。車、公共交通機関どちらでも、仙台駅周辺から約40分弱で訪れることができますので、是非訪れてみてはいかがでしょうか?
海岸公園内としては荒浜地区と呼ぶエリアに位置し海釣りやサーフィンなどが年間を通して盛んで、公園内を通過する全長14kmのサイクリング専用道路では本格的なサイクリングを楽しめるなどアウトドアスポーツの利用者が多くみられます。
これらの利用者のための自転車の貸し出しやコインシャワーが利用でき、利用者への情報提供や軽易なミーティングルームなど施設の貸し出しなどを行っており、休憩施設としても利用できます。
また、センターハウス内では震災直後の施設の状況と現在を比較した写真や貞山堀に関する資料、海岸公園内の樹林地(防災林)の再生活動である「仙台ふるさとの杜再生プロジェクト」に関する資料などを展示しておりますので是非ご覧ください。
館内は自由に休憩などもできますので館内でおくつろぎください。また、自然の素材を使った簡単なクラフトなども行えます。
南北約9キロ、550ヘクタールに及ぶ広大な公園の中心に位置します
自転車の貸し出しも行っておりますのでぜひご利用ください
2001年みやぎ国体の馬術競技会場として設立されたこの施設は、その後「馬術競技の開催・市民スポーツとしての乗馬普及及び振興を目的」として運営されています。
2011年の東日本大震災で被災し、7年4か月の時を経て2018年7月8日に再開しました。気軽に馬にふれあえる公園として、見学からエサやり、本格的な乗馬レッスンが体験できます。予約がいらないアクテビティとして・えさやり・ひき馬(5歳以上)や馬に一人で乗る練習ができる乗馬レッスン(要予約)をご用意。見学は自由なので馬を見るだけでも楽しめます。
また、震災当時のパネルも展示し、当時の記憶を風化させない取り組みも行っていますので、ぜひそちらもご覧ください。
予約なしでも馬と触れ合うことができます
本格的な乗馬レッスンを体験してみませんか
NHK仙台放送局では東日本大震災に関する常設コーナーが2021年3月9日にリニューアルされました。「見て」「体験して」「学んで」いただくことで震災の記憶を伝承していきたいというコンセプトのもと、東日本大震災に関する豊富なメディア資料が、分かりやすく展示されています。「東日本大震災メモリアルコーナー」では、震災発生後のNHKニュース映像を日時を選んで振り返ることができると共に、年表や震災の概況をまとめた映像で、復興への歩みを辿ります。また、東日本大震災に関するVR動画を体験できるコーナーや、震災関連番組を上映する「3.11シアター」も常設されています。各展示は小学生にも分かりやすく、すべてルビがふられ、文字も大きく表示されています。今回のリニューアルでは、VRの4K化とクイズ形式の防災コンテンツが新たに制作されたほか、8K震災遺構の上映も実施されています。是非、訪れてみてください。