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Feature『Love Letter』『スワロウテイル』など数々の名作を手掛ける岩井俊二監督が、自身の故郷・宮城を舞台に初めて撮影した映画『ラストレター』。「初恋」をテーマに、登場人物たちの心の動きを繊細に描いたラブストーリーです。仙台市が選ぶ「仙台シネマ」第7作品目にも認定されました。
この映画で主なロケ地となったのが、城下町・白石と杜の都・仙台。2018年夏に撮影が行われ、緑あふれる街並みや川のせせらぎなどの風景が美しく描かれています。ロケ地を巡り、観光スポットとは視点を変えて、「新しい仙台・宮城」を探しに出かけましょう。
裕里(松たか子)の姉の未咲が、亡くなった。裕里は葬儀の場で、未咲の面影を残す娘の鮎美(広瀬すず)から、未咲宛ての同窓会の案内と、未咲が鮎美に残した手紙の存在を告げられる。未咲の死を知らせるために行った同窓会で、学校のヒロインだった姉と勘違いされてしまう裕里。そしてその場で、初恋の相手・鏡史郎(福山雅治)と再会することに。
勘違いから始まった、裕里と鏡史郎の不思議な文通。裕里は、未咲のふりをして、手紙を書き続ける。その内のひとつの手紙が鮎美に届いてしまったことで、鮎美は鏡史郎(回想・神木隆之介)と未咲(回想・広瀬すず)、そして裕里(回想・森七菜)の学生時代の淡い初恋の思い出を辿りだす。
ひょんなことから彼らを繋いだ手紙は、未咲の死の真相、そして過去と現在、心に蓋をしてきたそれぞれの初恋の想いを、時を超えて動かしていく―――
最初に訪れたのは、映画の冒頭、裕里の姉・未咲の葬儀シーンで使われた大聖寺。400年以上前に開かれた歴史あるお寺です。地元のエキストラとともに住職・副住職さんも参加し、実際の葬儀の流れを再現して撮影が行われました。
私たちを出迎えてくれたのは、副住職の福田孝教(ふくだこうきょう)さん。撮影の思い出やこの地域への思いについてお話を伺いました。
お地蔵様が並ぶ参道やそこから見えるお寺の風景を岩井監督が気に入り、ロケ地として選ばれました。
お寺の茶の間には、出演者のサインが飾られています。見学も可能。
2019年10月に襲った台風19号の影響により、大聖寺では石仏が流され、本堂の一部が壊れるなどの被害が出ました。にもかかわらず、大聖寺の皆さんはじめ、お寺で出会った地元の方々は映画が公開されることをうれしそうにお話してくださいました。『お寺は地域に開かれた場所』。副住職の言葉通り、訪れた人を温かく迎えてくれるこの場所のやさしさを感じてください。
次に向かったのは、白石高校旧校舎近くの舘堀川沿いに佇む民家・片倉邸。築100年以上経つ昔ながらの日本家屋は、見る人に“懐かしさ”を感じさせます。映画では、裕里の実家であり鮎美が暮らしている遠野家として登場します。
大聖寺と同じく、台風19号の被害を受けた片倉邸は現在人が出入りすることはできません。この家で生まれ育った疋田明(ひきたあき)さんが、撮影時のエピソードや被災後の思いを語ってくださいました。
被災した家の中に飾られたお花。家を大切に思う疋田さんの気持ちが伝わります。
玄関先には、劇中にも登場する郵便ポストがそのまま残っています。
台風被害があった後、岩井監督は片倉邸と大聖寺を直接訪問し、撮影関係者から集めた募金とメッセージ映像を届けてくださったそうです。突然の岩井監督からの励ましに、大変勇気付けられたと話していました。
玄関先で談笑する疋田さんご夫妻
また、片倉邸のすぐそばにある丁字路では、遠野家を訪れた鏡史郎を鮎美と颯香が見送るシーンの撮影が行われました。映画を見てからこの場所を訪れてみると、鮎美と颯香が今もここにいるような不思議な感覚に。あなたもここで写真を撮ってみては?
※台風被害の影響により、片倉邸は出入りすることができません。また、個人所有の敷地ですので、敷地内には絶対に入らず、道路から見学するようにしてください。
鏡史郎が高校時代の想い出を辿って校舎内を写真撮影して回ったり、鮎美と颯香が犬の散歩をしたりプールで手持ち花火をするシーンが印象的な“仲多賀井高校”は、数年前から廃校舎となっていた宮城県白石高校旧校舎で撮影が行われました。
場所は片倉邸のほど近く。ロケ地として候補に挙がった時には校舎の解体が決定していましたが、解体工事開始前のギリギリのタイミングで無事に撮影ができたそうです。校舎は撮影後に解体され、現在は更地に。映画のシーンと照らし合わせながら敷地内を歩き、今はなき校舎の面影と鏡史郎の恋心に想いを馳せてみてはいかがでしょうか?
かつて、白石城の外堀の役割を果たしていた沢端川は、高校の生物部の活動で裕里と鏡史郎がペアを組み用水路の生物を採取するシーンに使われました。鯉が泳ぎ、初夏には梅花藻が咲く清流です。
沢端川を泳ぐ鯉を眺める場所として使われている「ふれi(あい)デッキ」も、鏡史郎が母校を訪ねるシーンで登場。普段この道をバスが通ることはありませんが、撮影時には県内を走る「ミヤコーバス」の停留所を設置し、実際にバスを走らせて撮影が行われました。
白石城北側に建つ県指定文化財の旧小関家(武家屋敷)前の沢端川沿いでは、裕里が自転車で通りかかった姉・未咲を鏡史郎に紹介するシーンが撮影されました。片倉家中「小関右衛門七」の屋敷とされるこの場所は一年を通して見学ができるほか、不定期に季節のイベントが開催されます。ロケ地巡りの際に立ち寄って、白石の歴史に思いを馳せましょう。
岩井監督の出身地である仙台にも、素敵なロケ地がたくさん。突然、裕里の家にやってきた二頭の犬、ボル・ゾイを散歩させる広瀬川沿いの遊歩道は、普段は散歩やジョギングを楽しむ市民の憩いの場となっています。緑あふれる仙台の美しい自然を感じることができますよ。
広瀬川を眺めながら高台に移動すると、裕里と子どもたちが出かけた祖母を探すシーンで登場する愛宕神社があります。
現在の社殿は、慶長8年、藩祖伊達政宗公が千代城(仙台城)に入城と同時に造営され、現在に至るまで多くの方が参拝に訪れる由緒ある神社です。本殿は平成8年に仙台市の有形文化財に指定されました。楼門の両袖には天狗の座像があり、正面向かって右が大天狗、左が烏天狗です。天狗は、愛宕大神様のお使いと云われており、大天狗は愛宕太郎坊と云われ、天狗の中でも最高位の天狗と云われるそうです。烏天狗は大天狗の命を受け、善道を司ると云われています。仙台市街の景色も楽しむことができる場所としても知られています。
夜に訪れたいのが、仙台三越の裏にある昔ながらの横丁。豊川悦司さん演じる阿藤が暮らすアパートや、中山美穂さん演じるサカエのスナックがある路地の撮影はここで行われました。細い路地には、魚店や洋装店、個性的な飲食店などが軒を連ねます。ディープな仙台を味わえる場所。
ロケ地巡りを通して、仙台・宮城の日常の風景の美しさと、地元の方々の温かさを感じることができました。残念ながら、紹介したロケ地の中には台風19号によって被害を受けてしまった場所もあります。しかし、映画『ラストレター』には確かにそこにあった美しい情景がはっきりと残されています。
宮城の地に昔からそのまま残っている場所、変化した場所、すでに無くなってしまった場所など、映画には様々な場所が登場します。今に続くカタチは違えど、どの場所もそれぞれに地域の歴史や人々の思いが詰まった“仙台・宮城の原風景“です。ぜひたくさんのロケ地を巡ってみてください。せんだい・宮城フィルムコミッション特設サイトでは、ロケ地紹介のほか、様々なキャンペーン情報も掲載しています。
©2020「ラストレター」製作委員会